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新型コロナウイルスでマスクをしないと搭乗拒否される理由とは?

投稿日:2020年12月20日 更新日:

コロナ禍において、ピーチアビエーションや北海道エアシステムで、マスクを着用していない乗客が臨時着陸で飛行機から降ろされたり出発前に搭乗拒否されたりする事象がありました。

「マスク拒否」で相次ぐ旅客機での退去命令、乗客側の訴えに道理はあるか(DIAMOND online)

余談ですがこのピーチの迷惑客は、ホテルでもやらかしています。

飛行機「マスク拒否」男性、今度はホテルで… 警官10人近く出動の大騒ぎに(YAJOO! JAPAN)

今回は、なぜマスクをしないと搭乗拒否されるのか解説します。

先に結論から説明すると、下記2つの理由から搭乗拒否されたり、途中で降ろされたりします。

「安全阻害行為等」としてみなされ、機長の権限で搭乗拒否されたり、途中で降ろされる。

航空会社が定めている「運航約款」において「運送の拒否」の条件に該当することから、搭乗拒否されたり、途中で降ろされる。

目次

    航空の法制度
    航空法の決まり 「安全阻害行為」
    航空法の決まり 「運航約款」
    航空法を破ることは危険
    まとめ

航空の法制度

このトピックを説明する上で、まず重要なのが航空法の制度です。

航空法は航空産業の安全かつ経済的な発展のために、様々な決まりを定めています。

日本の航空法は国連の経済社会理事会の専門機関である国際民間航空機関で採択された国際民間航空条約である「シカゴ条約」に準拠しており、国際的な取り決めの中で作られた法律です。

このことは航空法の第1条にしっかりと記載されています。

“この法律は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。”(航空法 第一条)

国際的な条約に準拠する法律であり、非常に厳格です。

そしてこの航空法の中に、今回の解説のポイントとなる要素があります。

それらは、「安全阻害行為」と「運航約款」です。

航空法の決まり 「安全阻害行為」

当然、航空会社は航空法を順守することで事業運営されていますので、乗客も法律に従って利用する必要があります。

例えば、乗客は機内で喫煙することはできませんし、飛行機の運航中は携帯電話の電源をフライトモードにする必要がありますし、機内では乗務員の指示に従わないといけません。

これらは全て法律に基づいた乗客が守らなければならない航空法の決まり事です。

これらを守らない法律に反した行動を「安全阻害行為等」(航空法第73条の3・第73条の4・第150条)と呼び、航空法に基づいて航空会社の規定には対応の仕方が定められています。

「安全阻害行為等」の定義は航空法第73条の3に記載されています。

“航空機内にある者は、当該航空機の安全を害し、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産に危害を及ぼし、当該航空機内の秩序を乱し、又は当該航空機内の規律に違反する行為(以下「安全阻害行為等」という。)をしてはならない。”(航空法 第七十三条の三)

これらの行為をした乗客に対する機長の権限が航空法第73条の4に記載されています。

“機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口が閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第五項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。”

簡単にまとめると

飛行機や乗客の安全に害を与えたり、機内の秩序を乱したり、規律に違反する行為は「安全阻害行為等」として航空法で認められ、機長はこれらの行為をした者やしようとする者を拘束したり降機させることができる

ということです。

ちなみに、機内には拘束するための器具が積まれていて、乗務員はそれらで拘束する訓練も受けています。

拘束されるとこうなります。(https://ichef.bbci.co.uk/news/800/media/images/65148000/jpg/_65148255_icelandman_ellwoodblurredface.jpg)

コロナ禍でマスクを着けない行為は、ここでいう「機内の秩序を乱す」もしくは「機内の規律に従わない」行為して解釈することができますので、機長はマスクを着用しない乗客を飛行機から降ろしたということが理解できます。

通常の環境においてマスクを着けないことは問題ないですが、このコロナ禍においてマスクを着用しないことは航空会社の規律に違反することであり、他の乗客の不安にさせることになり、機内の秩序を乱すことにつながります。

航空法の決まり 「運航約款」

次に航空法に定めがある「運航約款」について説明します。

航空運送事業社は、運航約款を定めて国交大臣の認可を受ける必要があります。(航空法第106条)

“本邦航空運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様である。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、左の基準によつてこれをしなければならない。
一 公衆の正当な利益を害するおそれがないものであること。
二 少くとも運賃及び料金の収受並びに運送に関する事業者の責任に関する事項が定められていること。”(航空法 第百六条)

そしてそれらを利用者が見やすいところに掲示することが定められています。(航空法第107条)

“本邦航空運送事業者は、運賃及び料金並びに運送約款を営業所その他の事業所において公衆に見やすいように掲示しなければならない。”(航空法第百七条)

約款の規定は民法の第548条の2にもあります。

“定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。”(民法 第五百四十八条の二)

では、航空会社の約款で「マスクを着用しないこと」に関して適用されそうな箇所をANAを例に見てみましょう。

ちなみに航空各社の運航約款は似たような内容になっています。

ANAの約款には下記がありました。

“第16条 運送の拒否及び制限
会社は、次の各号に該当すると認めた場合には、当該旅客の搭乗を拒絶し、又は寄航地空港で降機させることができます。その場合において、その旅客の手荷物についても同様の取扱いとします。この場合、第22条第1項の規定による払戻しを行い、取消手数料は一切申し受けません。
なお、本項(3)号(ホ)、(ヘ)又は(チ)の場合においては、上記の措置に加えて、当該行為の継続を防止するため必要と認める措置をとることができます。その措置には、当該行為者を拘束することを含みます。
(1) 運航の安全のために必要な場合
(2)法令又は官公署の要求に従うために必要な場合
(3)旅客の行為、年令又は精神的若しくは身体的状態が次のいずれかに該当する場合
 (イ)会社の特別な取扱いを必要とする場合
 (ロ)重傷病者又は8歳未満の小児で付添人のない場合
 (ハ)次に掲げるものを携帯する場合
武器(職務上携帯するものを除きます。)、火薬、爆発物、他に腐蝕を及ぼすような物品、引火しやすい物品、
航空機、旅客若しくは搭載物に迷惑若しくは危険を与える物品又は航空機による運送に不適当な物品若しくは動物
 (二)他の旅客に不快感を与え、又は迷惑を及ぼすおそれのある場合
 (ホ)当該旅客自身又は他の人の安全又は健康に危害を及ぼすおそれのある場合
 (ヘ)航空機又は物品に危害を及ぼすおそれのある場合
 (ト)第29条第4項又は第5項に該当する場合
 (チ)会社係員の業務の遂行を妨げ、又はその指示に従わない場合
 (リ)会社の許可なく、機内で、携帯電話機、携帯ラジオ、電子ゲーム等電子機器を使用する場合
 (ヌ)機内で喫煙する場合(喫煙には、すべての喫煙器具を使用する場合を含みます。)”

(全日本空輸株式会社 国内旅客運送約款 https://www.ana.co.jp/ja/jp/siteinfo/domestic/conditions-of-carriage/)

上記の約款を例にとると、コロナ禍でマスクを着けないことは「(ニ)他の旅客に不快感を与え、又は迷惑を及ぼすおそれのある場合」、「(ホ)当該旅客自身又は他の人の安全又は健康に危害を及ぼすおそれがある場合」、「(リ)会社係員の業務の遂行を妨げ、又はその指示に従わない場合」に該当する可能性があります。

簡単にまとめると

航空法で航空会社は運航約款を定めることになっており、航空会社はその内容について航空局から認可を受けている。また、利用者がサービスを利用する際に見やすいところに掲示し、利用者は航空券を購入する際にこの内容に同意していることからサービス利用時に約款に従う必要があり、約款に従わない場合航空会社は、その約款の内容に応じて搭乗拒否したりすることができる

ということです。

約款なんて読んだことないのに適用されるの?と思う人もいると思います。

ネットでの航空券の購入は、ほとんどの場合、約款を確認して合意しますというチェックボックスにチェックを入れないと購入できないようになっていますので、購入=約款の内容に合意ということになります。

各航空会社はアプリで航空券を購入する際に、約款に合意するか聞かれます。合意しないと購入できませんので、購入した乗客は全員、約款に合意したということになります。約款を確認するのは消費者の責任でもあります。

下に掲載するのはANAアプリの決済画面で、その下はジェットスターの決済画面です。約款を確認し、合意するかどうかを聞かれます。この時点で内容を確認するのは利用者の責任になります。合意したくなければ航空券は購入せず、他の交通機関を利用することになるでしょう。


前述の通り約款は空港のカウンターなどに掲示されていますので、航空のカウンターで購入する際もそれに合意したものとみなされます。

個人の理由でマスクをつけることなどが難しい場合は、航空券を購入する際に、その契約(約款)内容について利用者自身から航空会社へ確認・相談する責任があるでしょう。

航空法を破ることは危険

日本は1953年に、シカゴ条約に署名したことにより国連の社会経済理事会の専門機関である国際航空機関の加盟国になっています。そのため航空法は、国際民間航空条約に準拠する形で作られていますので、国際的な取り決めのともに作られたルールです。これを破るというのは非常に危険な行為といえます。

国際民間航空条約なんか必要ないだろ!と思う人もいると思います。別の議論にはなりますが、この条約は非常に重要です。条約がないと例えばなにが起きるかというと、航空管制が各国の空域ごとにその国の言語で行われ、滑走路のマーキングやライトの色や意味が国ごとに変わり、パイロットの技量も国によって異なり、パスポートも必要な国や不要な国があり、パスポートの形も国によって異なり、入出国で混乱が生じて時間がかかります。利用する航空会社それぞれで全く異なるルールを利用者に要求します。事故が起きても各国が協力して調査しません。飛行機製造国、事故発生国、航空会社が所属の国が別々に事故に調査し独自の見解で結果を出します。その結果、適切な対策が取らず事故が多発し事故率が高くなります。まさに1920年当初の国際航空の状況に逆戻りします。なので国際民間航空条約は重要で必須なのです!

まとめ

大きく分けて2つの理由でマスクをつけないと搭乗拒否されてしまいます。

コロナ禍においてマスクを着用しないことは、

「安全阻害行為等」としてみなされ、機長の権限で搭乗拒否されたり、途中で降ろされる。

航空会社が定めている「運航約款」において「運送の拒否」の条件に該当することから、搭乗拒否されたり、途中で降ろされる。

そして大事なことは、上記2つは国際条約に準拠する航空法で取り決められていることであるということです。

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