ANAとグループ4社に対して、航空局が行政指導をしたというNHKの記事がありました。
これは、ANAホールディングスと傘下の4社が、国の認可を受けずに運賃を変更するなどの不備が発生し、国土交通省から厳重注意の行政指導を受けたというもので、不適切な運賃変更は2014年以降、計13件確認され、結果的に約49億円が過大に徴収されていたという記事の内容です。
ANAと傘下4社に行政指導 手続き不備で総額約49億円過大徴収か(NHK)
一般人には、運賃や料金に関して変更、国の認可が必要というを知らない人も多いと思います。
鉄道と同じように公共交通機関である航空運送事業者は、運賃について航空法の手続きを遵守することが求められています。
今回は、航空会社の運賃や料金の設定と変更に関する手続きについて解説します。
航空法における運賃や料金に関する規定
航空法第105条に運賃についての規定があります。
(運賃及び料金)
第百五条 本邦航空運送事業者は、旅客及び貨物(国際航空運送事業に係る郵便物を除く。第三項において同じ。)の運賃及び料金を定め、あらかじめ、国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも同様である。
2 国土交通大臣は、前項の運賃又は料金が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該本邦航空運送事業者に対し、期限を定めてその運賃又は料金を変更すべきことを命ずることができる。
一 特定の旅客又は荷主に対し、不当な差別的取扱いをするものであるとき。
二 社会的経済的事情に照らして著しく不適切であり、旅客又は荷主が当該事業を利用することを著しく困難にするおそれがあるものであるとき。
三 他の航空運送事業者との間に、不当な競争を引き起こすこととなるおそれがあるものであるとき。
3 国際航空運送事業を経営しようとする本邦航空運送事業者は、第一項の規定にかかわらず、当該事業に係る旅客及び貨物の運賃及び料金を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも同様である。
4 国土交通大臣は、前項の運賃又は料金が、第二項各号のいずれにも該当せず、かつ、当該国際航空運送事業に係る航行について外国との間に航空に関する協定その他の国際約束がある場合における当該国際約束の内容に適合するものであるときは、前項の認可をしなければならない。
簡単に解釈を確認してみましょう。
まず、大前提として、航空会社は旅客と貨物の運賃と料金を定めて、国土交通大臣にあらかじめ届け出る必要があります。
そして、これを変更するときも大臣への届け出が必要になります。
大臣は、特定の旅客や荷主に対して差別的な取り扱いとなる場合、社会経済的事象から著しく不適切であったり利用が困難になるような場合、不当な競争を引き起こすこととなるような運賃や料金については、期限を決めてそれらを変更することを命令することができます。
加えて、国際線を運航する航空会社は、運賃と料金を定めて、大臣の認可を受ける必要があります。変更するときも同じです。
ここで興味深いのが、国内線の運賃と料金は「届出」の手続きとなり、国際線の運賃と料金は「届出」ではなく「認可」を受ける必要があるという点です。
「届出」というのはいわば通知することで、許可を受けることではありません。もちろん、航空会社が届け出た内容の「確認」は航空局で行われますので、航空法に記載されている通り、不適切な運賃や料金設定の場合は大臣が変更を命令することはできます。
しかし、「届出」の場合、それ以外の場合を除いて審査するということはありません。
これは市場の自由競争を確保するための制度と考えられます。
一方、「認可」を受けるとなると、認可のための審査基準があり、基準に適合すると許可されるということになります。
NHKのニュース記事では、「国の認可を受けずに運賃や手荷物の料金を変更するなど」と書かれていることから、主たる不備の内容としては、国際線の運賃や料金の変更に関する手続きに不備があったと考えられます。
航空法施行規則における運賃や料金に関する規定
航空法施行規則をみると、第215条と第216に航空法第105条を補足する内容が規定されています。
第215条では、運賃や料金を設定したり変更する際に必要となる「届出」についての必要事項を定めています。つまり、国内線の運賃や料金を設定や変更する際の手続きになります。
(運賃及び料金の届出)
第二百十五条 法第百五条第一項の規定により、運賃及び料金の設定又は変更の届出をしようとする者は、次に掲げる事項を記載した運賃及び料金設定(変更)届出書を国土交通大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 設定し、又は変更しようとする運賃及び料金の種別及び額並びに期間、区間その他の条件(変更の届出の場合は、新旧の対照を明示すること。)
第216条では、国際線の運賃や料金を設定したり変更する際に必要となる「認可」申請についての必要事項を定めています。
国内線の「届出」手続きと異なるところは、変更する運賃や料金が航空法第105条の4項の基準に適合していることの説明と、変更の場合はその変更が必要な理由が追加で必要になるところです。
ちなみに、航空法第105条の4項というのは、以下の内容になります。
・特定の旅客や荷主に対して差別的な取り扱いとなる運賃や料金ではないこと
・社会経済的事象から著しく不適切であったり利用が困難になる運賃や料金ではないこと
・不当な競争を引き起こすこととなるような運賃や料金ではないこと
加えて、
・国際線を運航する外国との間に航空に関する協定その他の国際約束がある場合は、これらの内容に適合した運賃や料金であること
(国際航空運送事業に係る運賃及び料金の認可申請)
第二百十六条 法第百五条第三項の規定により、国際航空運送事業に係る運賃及び料金の設定又は変更の認可を申請しようとする者は、次に掲げる事項を記載した運賃及び料金設定(変更)認可申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所
二 設定し、又は変更しようとする運賃及び料金の種別及び額並びに期間、区間その他の条件(変更の認可の申請の場合は、新旧の対照を明示すること。)
三 当該申請に係る運賃及び料金が法第百五条第四項の基準に適合する旨の説明
四 運賃及び料金の変更の認可の申請の場合は、変更を必要とする理由
なぜ10年以上経ってから明るみに出たのか
2014年以降と、10年以上指摘されなかった理由としては、国の監査や航空会社の内部監査と関係があると考えられます。
国土交通省航空局は、法令に基づき航空会社の安全管理を計画かつ定例的に監査していますが、このような、航空法の第100条以降の部分、つまり、航空運送の事業認可に関する部分で、いわゆる100条申請関係の事務手続きについては、国の定例監査の対象となっていないことが要因としてあると考えられます。
各航空会社においても、この記事で説明したような、国内線の運賃や料金の「届出」と国際線の運賃や料金の「認可」申請については、社内規定に定めがあると考えられますが、適切に実行されなかったということではないでしょうか。
航空安全プログラムの観点から、安全管理であれば、各社、内部安全監査を実施する責任がありますが、事業認可周辺の手続きについては、内部安全監査の対象外ということもあり、社内でこれを特定することができなかったことも要因の一つとして考えられます。