「英語には敬語がない」というのは本当か?

日本語には、敬語(尊敬語・謙譲語・丁寧語)があり、相手を尊重する文化があります。

英語の場合はどうでしょうか。

日本語でいうところの尊敬語や謙譲語と全く同じ位置づけのものはありませんが、丁寧な表現、つまり丁寧語というのは存在します。

広義的な意味では、英語にも敬語が存在するといえるでしょう。

今回は英語の敬語について、例文を使って解説します。

目次

英語の丁寧な表現とは?

英語の丁寧な表現は、大きく分けて2通りあります。

●相手への尊敬を表す表現や言葉の選択

●遠回しにものを言う、婉曲表現

どちらも日本語と共通する概念です。

相手と良好な関係を築くため、英語の世界にも同じ概念があります。

実際の例を用いて説明していきます。

この記事は、Cambridge English Dictionaryの「Politeness」を参考に作成しています。(https://dictionary.cambridge.org/grammar/british-grammar/politeness_2)

相手への尊敬を表す表現や言葉の選択

日本語と同じように、英語にも相手への尊敬を表す表現や言葉使いがあります。

日常的に使われている表現や言葉使いであるため、意識的に注意しないと、実は丁寧な表現であるということに気付かないかもしれません。

いくつか例を用いて説明していきます。

■空港などで使われる表現

● ”Ladies and Gentlemen, thank you for flying with ANA today. This flight is…”

 「ご搭乗の皆様、本日はANAをご利用いただきまして、誠にありがとうございます。当便は、、、」

● ”Passenger paging, Mr. Sato, Mr. Sato, please make your way to Gate No.9. Thank you.

 「お客様のお呼び出しです。佐藤、佐藤、ゲート9番の係員までお声がけください。」

定番中の定番、”Ladies and Gentlemen” や “Mr” の登場です。

性的マイノリティへの配慮もあり、近年は “Everyone” という単語に置き換わりつつありますが、”Ladies and Gentlemen” は丁寧な表現です。

また日本語の「様」にあたる “Mr.” というのも、れっきとした丁寧な表現です。

それから文末に “Thank you” とつけることで、より丁寧な表現になります。

■レストランなどで使われる表現

● ”Shall I take your coat, Sir?”

 コートをお預かりいたしましょうか?

● ”May I take your plate, Madam?”

 お済のお皿をおさげいたしましょうか?

自分の行動に対して “shall” や “may” をつけることで丁寧な表現になります。

また、相手の名前がわからない場合には、男性に対しては “sir” 、女性に対しては “madam” という言葉を使い呼びかけるのが丁寧な言葉遣いになります。

日本語には “sir” や “madam” と同じ意味をもつ言葉は、思いつかないので、あまりないと思います。

名前がわかっている場合は、”Mr.” などを使って名前を呼ぶことが丁寧な言葉使いで、相手を尊敬することになります。

海外留学中は、私が10代でありながらも、空港やレストラン、ホテルなどでは “sir” を使って呼ばれ、恥ずかしながら大人になったような感覚を覚えたのが懐かしい記憶です。

町中の安いレストランでは、このような丁寧な表現を使わないところもあります。

例えば、高級レストランでは “May I take your order?” 「ご注文はいかがですか?」となるところ、 普通の安めのレストランでは、”Do you want to order?” や “Are you ready to order?” “What would you like to start with?” のように柔らかい表現を使う場合もあります。

■街中で使われる表現

● “Execuse me, I am looking for Asakusa Sensoji Temple?”

 「すみません、浅草寺に行きたいのですが、道を教えていただけませんか?」

人によっては、例文はごく普通の表現でとくに丁寧でもないという風に感じる人もいるかもしれません。

丁寧でない表現にしてみると、”Where is Asakusa Sensoji Temple?” となり、「すみません」や「浅草寺に行きたい」という表現がなくなり、いきなり、「浅草寺どこ?」と聞かれるような印象になります。

当たり前と思うような表現でも実は丁寧な表現になっているのです。

遠回しにものを言う、婉曲表現

婉曲表現は、日本語がとても得意とする分野だと思いますが、英語にも同じ概念があります。

ストレートにズバッというのではなく、遠回しに物事を伝えるという表現方法です。

英語もこの手法は得意で、多くのパターンがあります。

パターンのいくつかを例をもとに説明します。

■やわらかい表現

やわらかい表現直接的な表現
It’s kind of hot in here, isn’t it? Could we turn on the air conditioner?
ここは少し暑くないですか?エアコンをつけてもいいでしょうか
It’s hot in here. Let’s turn on the air conditioner.
ここは暑い。エアコンを使おう。
Could you jsut turn down the volume a little, please?
音量を少し下げていただけませんか
Turn down the volume.
音量下げて。
Your pass could possibly be improved.
You may need to spend more time working a little bit on the direction control.
もしかするとパスを上手にできるかもしれない。
もう少しパスの方向に練習の時間を使うと必要があるかもしれない
You must improve your pass.
You need to spend more time working on the direction control.
パスを改善しないといけない。
パスの方向に練習の時間を使う必要がある。

■あいまいな言葉

● A: What time is good for you?

 B: Any time around seven would be great.

 A: 何時がいい?

 B: 7時頃ならいつでもいいよ。

● It’s about six o’clock so I think we should get going soon.

 そろそろ6時だから、もうすぐ出発したほうがいいと思う

● A: What colour is your jacket?

 B: It’s kind of brown, with a few black buttons on the front.

 A: ジャケットは何色?

 B: 茶色っぽい色で、黒のボタンがいくつかついているよ。

例からもわかるように、時間や量などについて直接的な表現を避けるために、あいまいな言葉を使って、わざとざっくりとした表現にします。

その他にも遠回しにものをいう例があります。嫌いなものなど、マイナスな表現を婉曲表現で伝えます。

■嫌いなもの

● ”It’s not really my taste.”

 「この食べものは私の好みではない。」

● ”He is not my type.”

 「彼は私のタイプではない。」

法助動詞

いきなり法助動詞といわれても、なんだそれはという感じですね。

法助動詞というのは英語でModal Verbsと言われ、”can”, “may”, “shall”, “will”, “could”, “might”, “should”, “would” などの助動詞を使うことをいいます。

これ以外にも、”certainly”, “possibility”, “be likely to”, “be supposed to be” などを使うことがあります。

これらの表現を使うことで、より丁寧な表現になります。

特に、人に何かを尋ねたり、お願いするときに使います。

例文で説明していきますが、日本語に同等の言葉が無いことが多く、日本語の訳からはその丁寧さが伝わらないと思いますが、非常に丁寧な表現になっています。

■ 初めて会う人との会話などで

 ”Might I ask where you are from?” (”May I ask…?” より丁寧)

 「どちらのご出身か聞いてもいいでしょうか?」

■ レストランやお店などで案内される際など

 ”Would you follow me, please, sir?” (”Will you…?” より丁寧)

 「こちらにご案内いたします。」

■ 空港などで

 ”Would you mind moving your bag, please?” (Do you…? より丁寧)

 「荷物を動かしていただけますか?」

■ 会社や修理店などで

 A: “Could you take a look at my phone? It’s very slow.”

 B: “We will certainly take a look. Is there a possibility that you dropped your phone?”

 A: “Well, I have a phone case that is supposed to be protecting the phone.”

 A: 「私のスマートフォンをみていただけないでしょうか。とても遅いのです。」

 B: 「はい、確かに承ります。もしかして、落とされたということはないでしょうか?」

 A: 「スマホカバーをつけているので、落としたとしても、守ってくれるはずなのですが。」

■ 会社などで

 ”You are likely to feel nervous before your presentation.”

 「あなたは、プレゼンテーションの前は緊張することがあるでしょう。」

動詞構造の変更

現在の話をしていても、動詞の自制を過去にすることで、直接的な表現を避けて丁寧な表現にするという方法です。

この方法で使われる動詞は、”hope” “think” “want” “wonder” などです。

最近は日本語でも「こちらの商品でよろしかったでしょうか?」と過去形で言われる場合もありますが、同じような感覚でしょう。

過去形にすることで丁寧になりますが、最上級に丁寧なのは過去進行形です。

例文で説明します。

■ 仕事などで 

 A: “Where is the key to the facility room?”

 B: “I was hoping you had it.” (”I hope you have it” より丁寧)

 A: 「設備室へのカギは?」

 B: 「あなたがお持ちだと思ったのですが。」

■ 同僚といるときなど

 ”I thought you might want to have dinner first since it’s kind of late at night.”

 「夜遅いので、先によるご飯を食べたいかと思っていました。」

■ 会社や学校で 

 ”I wanted to ask you a question.”

 「質問したかったのですが。」

■ 会社などで

“I am having problems with my laptop and I was just wondering if you could take a look. (”I have problems…I wonder if you…” より丁寧)

よりフォーマルな環境では、質問・提案・お願いを過去形でする場合があります。

■ ”Did you want another tea?”

 「紅茶のおかわりはいかがでしょうか?」

■ ”I thought you might like some help.”

 「サポートは必要でしょうか?」

■ ”We were rather hoping that you would remain in the company.”

 「あなたが私たちと会社に残って一、緒に働いてくれることを願っていたのですが。」

お店やサービスを受ける際にも、店員が過去形を使うことがあります。

■ ”Your booking was under, what name was it?”

 「お客様のご予約は、どちらのお名前でしたでしょうか?」

■ ”Did you need any help, sir?”

 ”Oh, no thanks. I’m just looking.”

 「お客様、お手伝いいたしましょうか?」

 「ああ、いえ、ただ見ているだけです。ありがとうございます。」

Ifを使う丁寧な表現

“If” を使って丁寧な表現にすることがあります。

何かをしたいときやお願いするときなどに使われます。

“If” の後に続くのは、”will”, “would”, “can”, “could” などがあります。

■ ”If we can move on to the next topic of this meeting.” (”Can we move on…? より丁寧)

 「会議の次の議題に移りたいと思います。」

■ ”If I could add one more thing…” (”I want to say…” より丁寧)

 「もう一点だけ言わせていただきたいのですが。」

■ ”If you will follow me, please.” (”Follow me, please.” より丁寧)

 「こちらにご案内いたします。」

“If” を使う表現は他にもあります。

日本でも「もしよろしければ」と付け加えて話すことがあると思いますが、英語でもこれと同じように話すことがあります。

使うフレーズは、”if you don’t mind”, “if it’s OK with you”, “if I may say so”, “if it’ll help” などがあります。

■ ”If you don’t mind, I think I will sit here.”

 「もしあなたがよければ、ここに座ろうと思います。」

■ ”I’ll come with you, if it’s OK with you.

 「もし君がよければ、僕も一緒に行くよ。」

2段階の質問

英語では、まず導入となる質問をして、その次に、本当に聞きたい質問をして、直接的に質問しないという方法があります。

これも日本語で同じような質問の仕方をすることがありますね。

■ A: “Do you like music? I mean, do you play any instruments?”

 B: “Yes. I play the guitar. I am in a band.”

 A: 「音楽は好きですか?楽器は演奏しますか?」

 B: 「はい、ギターを弾きます。バンドやっているんですよ。」

■ A: “Is this your pen?”

 B: “Yes, that is mine.”

 A: “Do you mind if I borrow it for a minute?”

 B: “Not at all.”

 A: 「このペンはあなたのペンですか?」

 B: 「はい、そうです。」

 A: 「少しの間、お借りしてもよいでしょうか?」

 B: 「はい、もちろんですよ。」

名前を呼ぶ

話している相手の名前を呼ぶことで、直接的にならないように話す方法です。

■ ”What’s the time, Chris?” (”What’s the time?” より丁寧)

 「今何時かな、クリス?」

■ I’m not sure I agree with you, John. (”I’m not sure I agree with you.” より丁寧)

 「ジョン、僕は同意できるかわからないよ。」

まとめ

英語にも丁寧な表現は存在するため、広義的には、敬語があるといってよいでしょう。

例でみてきたように、丁寧に表現する方法は以下のような方法があります。

  • 相手への尊敬を表す表現や言葉の選択
  • 遠回しにものを言う、婉曲表現
  • 法助動詞
  • 動詞構造の変更
  • Ifを使う丁寧な表現
  • 2段階の質問
  • 名前を呼ぶ