「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体」というものを初めて聞く人は多いと思います。
航空業界にいる人ならなんとなくイメージがあるかもしれませんが、全く知らない人も少なくないでしょう。
航空機整備に身を置く人は、聞き慣れた言葉でしょう。
「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体」というのは、「ANA(全日本空輸株式会社)」と「関連会社」から成る事業体のこといいます。
そしてこの事業体が、「航空機整備認定事業場」として登録されているため、「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体認定事業場」となるわけです。
航空機整備の世界では、一般的に「共同事業体」がJoint Ventureと呼ばれることから、「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体認定事業場」を通称として「ANA JV」というふうに呼んでいます。
今回は、マニアックですが、この「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体認定事業場」について解説します。
これから航空業界に入りたいと思う人は、知っていて損は無いと思います。
共同事業体整備認定事業場の目的
経営戦略・コスト・リスク管理・専門性等の視点から、世界的に航空機整備は分社化や委託という道をたどってきています。
ANAにおいても例外ではありません。
ANAは同様の理由から、ANAグループの整備専門会社やグループ以外の会社にも機体整備を委託しています。
ANAが航空機整備を委託しているANAグループの整備専門会社としては、以下の企業があります。
- ANAベースメンテナンステクニクス(株)(航空機整備、装備品整備)
- ANAコンポーネントテクニクス(株)(装備品整備)
- ANAエンジンテクニクス(株)(エンジン整備)
- ANAラインメンテナンステクニクス(株)(航空機整備)
- ANAエアロサプライシステム(株)(設備保全、資材領収検査、部品保管管理、技術資料管理補助)
航空機や装備品の整備を行うためには、各社が航空法第20条(事業場の認定)にもとづいて、整備認定事業場として国土交通省から認定を受ける必要があります。
そのため、整備認定事業場制度の視点からすると、ANAの航空機の整備のためのグループ内企業の委託に際して、グループ各社において国土交通省の認定を受け認定事業場となる必要があります。
ANAの航空機をグループ内各社で整備する仕組みとしては、認定事業場の申請手続きや維持管理が煩雑になります。
これは、企業側と航空局側両方に言えることで、手続き、審査や監査にかかるコストが単純に5倍になることを意味します。
また、航空機整備を委託する際には、委託元の企業が委託先の適切な業務を確保するための定期的な監査や各事業場間の責任を明確にするための委託作業後の領収検査を実施するなど、委託管理を行うことによって安全を確保していますが、この管理が複雑になりすぎるという不都合があります。
そこで考え出された方法が、「共同事業体認定事業場」というものです。
ANAとANAグループの整備専門会社は、法人としては別人格ですが、認定事業場としては1つにするという考えです。
こうすることで、各種の手続きや品質保証の観点からの業務を簡素化することができます。
この「共同事業体認定事業場」を略称でANAJV(ANA Joint Venture)と呼びます。
2009年10月に「全日本空輸(株)を統括管理企業とする共同事業体認定事業場」は誕生しました。
日本には、ANA JVの誕生まで共同事業体認定事業場という考え方が無かったため、この共同事業体認定事業場の誕生に併せて、国土交通省はサーキュラー「共同の事業に関する事業場認定の指針」を制定し、ルールの整備を行いました。
サーキュラーの制定について、国土交通省航空局はその狙いを以下のとおりとしています。
大型機については、機体構造やエンジン、装備品等のシステムに応じて様々な点検・整備を行う必要がありますが、大手航空運送事業者においては、多くの整備作業を複数の整備専門の子会社に分割して委託し、航空機の整備作業を実施しています。
この場合、現在は各企業がそれぞれの品質管理制度等の整備体制を構築し、個別に国の事業場認定を受け、委託元の企業が委託先の適切な業務を確保するための定期的な監査や各事業場間の責任を明確にするための委託作業後の領収検査を実施するなど、委託管理を行うことによって、整備の適切性を確保しております。その結果、関係する事業場が多い場合などには安全を確保するための委託管理のしくみが複雑になっています。
一方で、グループ企業が航空機整備を共同の事業として行うに当たり、グループ企業全体が一元的な権限と責任かつ一体的な品質管理体制の下で整備業務を実施する場合には、当該共同の事業を行う事業場が上記の認定を受けることにより、適確に整備業務を実施することが確保できると考えます。
このため、複数の企業が整備等に関する事業を共同で実施する場合に、上記の認定を受けることを可能とするよう、現在の「事業場認定に関する一般方針」に加え、「共同の事業に関する事業場認定の指針」(仮称)を定めることとします。
国土交通省航空局航空機安全課(https://www.mlit.go.jp/common/000040483.pdf)
共同事業体認定事業場の構造
サーキュラー「共同の事業に関する事業場認定の指針」に示されている共同事業体認定事業場の要求事項に、以下の内容があります。
① 当該共同の事業に参加する企業(以下「構成企業」という。)の範囲が明確であり、かつ当該共同の事業を代表する企業(以下「統括管理企業」という。)が定められていること。
② 内部的及び対外的業務執行に係る権限と責任について、一体性・一元性があり、かつ完結していると認められるものであること。
なお、以下の構成企業から成る共同の事業については、この要件に適合するものとして取り扱う。
ⅰ) 下記2.③の特定の航空運送事業者、及び当該特定の航空運送事業者がその財務及び事業の方針の決定を支配する企業
ⅱ) 下記2.③の特定の航空運送事業者、及び当該特定の航空運送事業者と同じ持株会社がその財務及び事業の方針の決定を支配する企業③ 当該共同の事業は、特定の航空運送事業者及びその関連航空運送事業者の航空機及びその装備品に係る整備等を行うことを主たる目的とし、かかる事業を主に行うものであること。
国土交通省(https://www.asims.mlit.go.jp/fsdb/a_circular.nsf/bc2af3923a3cb575492574fd002dd5df/91055ef56e5c0e78492578c400831889/$FILE/2-007.pdf)
この共同事業体認定事業場は、統括管理企業にANA(全日本空輸株式会社の整備部門)をおき、航空機整備のANA関連5社が構成企業として、認定事業場になっています。
その5社は、ANAベースメンテナンステクニクス(株)(航空機整備、装備品整備)、ANAコンポーネントテクニクス(株)(装備品整備)、ANAエンジンテクニクス(株)(エンジン整備)、ANAラインメンテナンステクニクス(株)(航空機整備)、ANAエアロサプライシステム(株)(設備保全、資材領収検査、部品保管管理、技術資料管理補助)となっていて、それぞれに業務の範囲と責任権限が与えられています。
これらの企業が単一の整備認定事業場としての認定をうけ、同一の品質基準、品質管理制度および安全管理システムのもと、整備認定業務を行っています。