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客室乗務員の負傷がなぜ航空事故として認定されるのか?

投稿日:2020年04月14日 更新日:

報道で「機体が急な揺れに遭遇し客室乗務員が負傷 航空局が事故認定」というような記事を最近みかけることが多くなりました。

先日はANAが事故を起こしました。

ANA機、急な揺れで客室乗務員が負傷 航空事故に認定(TRAICY)

なぜ客室乗務員の負傷が航空事故に認定されるのか解説します。

目次

航空事故に認定される理由

日本において客室乗務員の負傷が航空事故に認定される理由は、国際連合の経済社会理事会の専門機関である国際民間航空機関の定める航空事故の定義を準用し、日本国における航空法においてそれを適用しているためです。

航空法における「航空事故」の定義

日本国の航空法において、航空事故は下記の通り定義されています。航空法第76条と航空法施行規則65条の2と65条の3に定める内容をまとめて解釈したものです。

  • 航空機の墜落、衝突又は火災
  • 航空機による人の死傷又は物件の損壊
  • 航空機内にある者の死亡、ただし、自然死、自己または他人の加害行為に起因する死亡、航空機の乗組員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた者の死亡を除く
  • 航空機内にある者の行方不明
  • 他の航空機との接触
  • 上記以外の航空法施行規則で定める事故(航行中の航空機が損傷(発動機、発動機覆い、発動機補機、プロペラ、翼端、アンテナ、タイヤ、ブレーキ又はフェアリングのみの損傷を除く。)を受けた事態(大修理に該当する場合)とする。 )

実際の条文は当サイトの下記の記事を参照ください。

航空機による人の死傷又は物件の損壊」に該当するため航空事故になります。

では、「航空機による人の死傷」とは何を指しているのでしょうか?

「死亡」は比較的理解が簡単です。航空法に記載されている通り航空機内にある者の死亡です。ただ、自然死、自殺、他殺、乗組員や旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた者の死亡以外の死亡となりますので、航空機の運航に起因する死亡と解釈することができます。

例えば、故障により与圧が低下し呼吸困難に陥り死に至るような場合などが考えられます。

本題の「負傷」ですが、これは日本の航空法上の定義がありません。そこで、先に述べた通り、国際民間航空機関の定義を準用しているわけです。

国際民間航空条約のAnnex13には下記の通り定義があります。

Accident. An occurrence associated with the operation of an aircraft which takes place between the time any person boards the aircraft with the intention of flight until such time as all such persons have disembarked, in which:
a) a person is fatally or seriously injured as a result of
– being in the aircraft, or
– direct contact with any part of the aircraft, including parts which have become detached from the aircraft, or
– direct exposure to jet blast,
except when the injuries are from natural causes, self inflicted or inflicted by other persons, or when the injuries are to stowaways hiding outside the areas normally available to the passengers and crew

International Civil Aviation Organization

和訳すると

事故。航空機の運航に起因し、飛行を目的に人が航空機内に立ち入りってから降りるまでの間に起きた事象で、下記が原因で人が死亡もしくは重傷を負った場合
-航空機内にいること
-航空機との直接的な衝突(落下物を含む)
-ジェット噴流との接触
ただし、自然要因、自己または他人の加害行為に起因する場合、航空機の乗組員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた場合を除く

国際民間航空機関の定義で「重傷」という言葉が出てきました。つまり「死傷」というのは死亡と重傷ということになります。

では「重傷」の定義はなんでしょうか。これも日本の航空法には定義がありません。国際民間航空機関の定義を見てみましょう。

A serious injury is an injury sustained by a person in an accident and which:
a) requires hospitalization for more than 48 hours, commencing within 48 hours from the date when the injury was received; or
b) results in a fracture of any bone (except simple fractures of fingers, toes, or nose or;
c) involves lacerations which cause severe hemorrhage, nerve, muscle or tendon damage; or
d) involves injury to any internal organ; or
e) involves second or third degree burns, or any burns affecting more than 5 percent of the body surface; or
f) involves verified exposure to infectious substances or injurious radiation.

International Civil Aviation Organization

和訳すると

重傷というのは事故によって人にもたらせるもので、
-負傷してから48時間以内に入院し、入院の期間が48時間以上のもの
-骨折(ただし、指、つま先、鼻の単純骨折を除く)
-多量の出血、神経、筋肉、腱の損傷を引き起こす裂傷
-内臓の損傷
-2度もしくは3度以上、もしくは、体の面積の5%以上のやけど
-感染性物質や強い放射線への暴露

まとめると、

航空事故は、航空機の運航に起因する場合で、飛行を目的に機内にいる人(乗務員を含む)が航空機内に立ち入りってから降りるまでの間に死傷した(死亡(*1)や重傷(*2)を負った)場合を指します。ただし、自然要因、自己または他人の加害行為に起因する場合、航空機の乗組員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた場合を除きます。
(*1)死亡は事象の発生から30日以内の場合
(*2)重傷は下記を指す。
●負傷してから48時間以内に48時間以上の入院を要するもの
●骨折(ただし、指、つま先、鼻の単純骨折を除く)
●多量の出血、神経、筋肉、腱の損傷を引き起こす裂傷
●内臓の損傷
●2度もしくは3度以上、もしくは、体の面積の5%以上のやけど
●感染性物質や強い放射線への暴露

このことから、客室乗務員が乱気流など運航に起因した事象により骨折等の重傷を負った場合、航空事故に認定されます。

ではこれはどうでしょうか。

まったく揺れの無い水平飛行中に客室乗務員が手を滑らせ、乗客のズボンににホットコーヒーをこぼしてしましました。ズボンはすぐに脱げず、結果として2度のやけどという重傷を負ってしましました。

確かに、機内で重傷を負っていますが、コーヒーをこぼした原因は航空機の運航に起因しませんので、国際民間航空機関の定義にある “associated with the operation of an aircraft” に該当しないと解釈でき、航空事故には認定されません。

なぜ国際民間航空機関に従うか

ではなぜ、日本は国際民間航空機関の決めた定義に従うのでしょうか。

理由は簡単で、日本は1953年から国際民間航空機関に加盟しているからです。

航空法の第1条(この法律の目的)にも国際民間航空機関が登場し、国際民間航空機関が定める基本的なルールに則ることが記載されています。

この法律は、国際民間航空条約の規定並びに同条約の附属書として採択された標準、方式及び手続に準拠して、航空機の航行の安全及び航空機の航行に起因する障害の防止を図るための方法を定め、並びに航空機を運航して営む事業の適正かつ合理的な運営を確保して輸送の安全を確保するとともにその利用者の利便の増進を図ること等により、航空の発達を図り、もつて公共の福祉を増進することを目的とする。

航空法

誰が事故認定するのか?

事故認定をするのは国土交通省航空局で、事故調査をするのは国土交通省運輸安全委員会となっています。規制当局が調査を行うと客観性が失われるためです。

客室乗務員の負傷事故

近年の日本国の空域における客室乗務員の負傷事故は下記の通り発生しています。(国土交通省運輸安全委員会の情報を基に作成)

発生年月日航空会社発生場所機種
2020/4/12ANA愛媛県松山市の南南西約30キロ付近、高度約27,000フィートB737-800
2020/1/12ジンエアー福岡空港の北西約30キロメートルB737-800
2019/12/25タイガーエア台湾宮崎空港の北北東約100キロメートル、高度約9,100メートルA320-232
2019/10/12日本エアコミューター種子島空港の北北西約65キロメートル、高度約3,200メートルATR42-500
2019/5/2ティーウェイ航空成田国際空港の北約115キロメートルB737-800
2018/8/27バニラ・エア宮崎空港の東約45km付近海上、高度約9,100m(FL300)A320-214
2018/6/24JAL宮城県栗原市の上空 FL300B777-300
2017/10/22春秋航空日本熊本県阿蘇市の上空B737-800
2017/7/1ユナイテッド航空福島空港の南西約64km、高度約15,600ftB787-9

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