
ニュースなどで、航空事故や重大インシデントに認定されたという報道がありますが、そもそも航空事故や重大インシデントの定義とは何かという疑問を解決します。
航空は原則として航空法に従い業務を行うため、航空事故や重大インシデントの定義もしっかりと航空法に記載されています。
- 航空機の墜落、衝突又は火災
- 航空機による人の死傷又は物件の損壊
- 航空機内にある者の死亡、ただし、自然死、自己または他人の加害行為に起因する死亡、航空機の乗組員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた者の死亡を除
- 航空機内にある者の行方不明
- 他の航空機との接触
- 上記以外の航空法施行規則で定める事故(航行中の航空機が損傷(発動機、発動機覆い、発動機補機、プロペラ、翼端、アンテナ、タイヤ、ブレーキ又はフェアリングのみの損傷を除く。)を受けた事態(大修理に該当する場合)とする。 )
- 航行中他の航空機との衝突又は接触のおそれがあつたと認めたとき
- 航空法施行規則第166の4条に定める17項目のいずれかに該当するとき
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路からの離陸又はその中止
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路への着陸又はその試み
- オーバーラン、アンダーシュート及び滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなつた場合に限る。)
- 非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態
- 飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行つた事態
- 発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)
- 飛行中における発動機(多発機の場合は、二以上の発動機)の継続的な停止又は出力若しくは推力の損失(動力滑空機の発動機を意図して停止した場合を除く。)
- 航空機のプロペラ、回転翼、脚、方向舵だ、昇降舵だ、補助翼又はフラップが損傷し、当該航空機の航行が継続できなくなつた事態
- 航空機に装備された一又は二以上のシステムにおける航空機の航行の安全に障害となる複数の故障
- 航空機内における火炎又は煙の発生及び発動機防火区域内における火炎の発生
- 航空機内の気圧の異常な低下
- 緊急の措置を講ずる必要が生じた燃料の欠乏
- 気流の擾じよう乱その他の異常な気象状態との遭遇、航空機に装備された装置の故障又は対気速度限界、制限荷重倍数限界若しくは運用高度限界を超えた飛行により航空機の操縦に障害が発生した事態
- 航空機乗組員が負傷又は疾病により運航中に正常に業務を行うことができなかつた事態
- 物件を機体の外に装着し、つり下げ、又は曳航している航空機から、当該物件が意図せず落下し、又は緊急の操作として投下された事態
- 航空機から脱落した部品が人と衝突した事態
- 前各号に掲げる事態に準ずる事態
航空法の構造
この記事の内容を正確に理解するには、まず、航空法の構造についての理解が必要です。
ここでいう航空法は、2つで、「航空法」と「航空法施行規則」です。
簡単に説明すると、航空法は国会の議決で成立する法律です。その下に、国土交通省令として国土交通大臣によって制定される航空法施行規則があります。
航空法には事故や重大インシデントの定義がありますが、航空法施行規則によってその詳細が定められています。
ではさっそく、これらの定義を見ていきましょう。
航空事故
航空事故は、航空法の第76条に規定があります。留意する点としては、航空法には「航空事故の定義」として記載されているわけではなく、機長や航空会社が国土交通大臣に報告しなくてはならない事象として定めがあるということです。
(報告の義務)
航空法
第七十六条 機長は、次に掲げる事故が発生した場合には、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。ただし、機長が報告することができないときは、当該航空機の使用者が報告しなければならない。
一 航空機の墜落、衝突又は火災
二 航空機による人の死傷又は物件の損壊
三 航空機内にある者の死亡(国土交通省令で定めるものを除く。)又は行方不明
四 他の航空機との接触
五 その他国土交通省令で定める航空機に関する事故
旅客機の世界では、機長が国土交通大臣に直接報告ということは無く、機長は会社へ報告し、会社が国土交通省の航空局へ報告します。
噛み砕くと事故は、
- 航空機の墜落、衝突又は火災
- 航空機による人の死傷又は物件の損壊
- 航空機内にある者の死亡、ただし、航空法施行規則に規定されるものを除く
- 航空機内にある者の行方不明
- 他の航空機との接触
- 上記以外の航空法施行規則で定める事故
ということになります。
一部、例外がありリストが完成しませんので、航空法施行規則に定める内容を見てみましょう。
(事故に関する報告)
航空法施行規則
第百六十五条 (省略)
第百六十五条の二 法第七十六条第一項第三号の国土交通省令で定める航空機内にある者の死亡は、次のとおりとする。
一 自然死
二 自己又は他人の加害行為に起因する死亡
三 航空機乗組員、客室乗務員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた者の死亡
第百六十五条の三 法第七十六条第一項第五号の国土交通省令で定める航空機に関する事故は、航行中の航空機が損傷(発動機、発動機覆い、発動機補機、プロペラ、翼端、アンテナ、タイヤ、ブレーキ又はフェアリングのみの損傷を除く。)を受けた事態(当該航空機の修理が第五条の六の表に掲げる作業の区分のうちの大修理に該当しない場合を除く。)とする。
上記の航空法のリストに施行規則の内容を反映すると下記が航空事故の最終的な定義となります。
- 航空機の墜落、衝突又は火災
- 航空機による人の死傷又は物件の損壊
- 航空機内にある者の死亡、ただし、自然死、自己または他人の加害行為に起因する死亡、航空機の乗組員又は旅客が通常立ち入らない区域に隠れていた者の死亡を除
- 航空機内にある者の行方不明
- 他の航空機との接触
- 上記以外の航空法施行規則で定める事故(航行中の航空機が損傷(発動機、発動機覆い、発動機補機、プロペラ、翼端、アンテナ、タイヤ、ブレーキ又はフェアリングのみの損傷を除く。)を受けた事態(大修理に該当する場合)とする。 )
重大インシデント
次に重大インシデントを見ていきます。同じように航空法と航空法施行規則を見ていきます。
(報告の義務)
航空法
第七十六条の二 機長は、航行中他の航空機との衝突又は接触のおそれがあつたと認めたときその他前条第一項各号に掲げる事故が発生するおそれがあると認められる国土交通省令で定める事態が発生したと認めたときは、国土交通省令で定めるところにより国土交通大臣にその旨を報告しなければならない。
噛み砕くと重大インシデントは、下記の通りです。
- 航行中他の航空機との衝突又は接触のおそれがあつたと認めたとき
- 事故の定義(航空機の墜落、衝突又は火災、航空機による人の死傷又は物件の損壊、航空機内にある者の死亡(国土交通省令で定めるものを除く。)又は行方不明、他の航空機との接触、その他国土交通省令で定める航空機に関する事故 )が発生するおそれがあると認められる航空法施行規則で定めるもの
事故と同じようにリストが完成しませんので、施行規則を見ていきます。
(事故が発生するおそれがあると認められる事態の報告)
航空法施行規則
第百六十六条の四 法第七十六条の二の国土交通省令で定める事態は、次に掲げる事態とする。
一 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路からの離陸又はその中止
二 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路への着陸又はその試み
三 オーバーラン、アンダーシュート及び滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなつた場合に限る。)
四 非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態
五 飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行つた事態
六 発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)
七 飛行中における発動機(多発機の場合は、二以上の発動機)の継続的な停止又は出力若しくは推力の損失(動力滑空機の発動機を意図して停止した場合を除く。)
八 航空機のプロペラ、回転翼、脚、方向舵だ
、昇降舵だ、補助翼又はフラップが損傷し、当該航空機の航行が継続できなくなつた事態
九 航空機に装備された一又は二以上のシステムにおける航空機の航行の安全に障害となる複数の故障
十 航空機内における火炎又は煙の発生及び発動機防火区域内における火炎の発生
十一 航空機内の気圧の異常な低下
十二 緊急の措置を講ずる必要が生じた燃料の欠乏
十三 気流の擾じよう乱その他の異常な気象状態との遭遇、航空機に装備された装置の故障又は対気速度限界、制限荷重倍数限界若しくは運用高度限界を超えた飛行により航空機の操縦に障害が発生した事態
十四 航空機乗組員が負傷又は疾病により運航中に正常に業務を行うことができなかつた事態
十五 物件を機体の外に装着し、つり下げ、又は曳航している航空機から、当該物件が意図せず落下し、又は緊急の操作として投下された事態
十六 航空機から脱落した部品が人と衝突した事態
十七 前各号に掲げる事態に準ずる事態
上記の施行規則を先ほどのリストに加えると、最終的な重大インシデントの定義は下記の通りです。
- 航行中他の航空機との衝突又は接触のおそれがあつたと認めたとき
- 上記施行規則に規定する17項目のいずれかに該当するとき
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路からの離陸又はその中止
- 閉鎖中の又は他の航空機が使用中の滑走路への着陸又はその試み
- オーバーラン、アンダーシュート及び滑走路からの逸脱(航空機が自ら地上走行できなくなつた場合に限る。)
- 非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態
- 飛行中において地表面又は水面への衝突又は接触を回避するため航空機乗組員が緊急の操作を行つた事態
- 発動機の破損(破片が当該発動機のケースを貫通した場合に限る。)
- 飛行中における発動機(多発機の場合は、二以上の発動機)の継続的な停止又は出力若しくは推力の損失(動力滑空機の発動機を意図して停止した場合を除く。)
- 航空機のプロペラ、回転翼、脚、方向舵だ、昇降舵だ、補助翼又はフラップが損傷し、当該航空機の航行が継続できなくなつた事態
- 航空機に装備された一又は二以上のシステムにおける航空機の航行の安全に障害となる複数の故障
- 航空機内における火炎又は煙の発生及び発動機防火区域内における火炎の発生
- 航空機内の気圧の異常な低下
- 緊急の措置を講ずる必要が生じた燃料の欠乏
- 気流の擾じよう乱その他の異常な気象状態との遭遇、航空機に装備された装置の故障又は対気速度限界、制限荷重倍数限界若しくは運用高度限界を超えた飛行により航空機の操縦に障害が発生した事態
- 航空機乗組員が負傷又は疾病により運航中に正常に業務を行うことができなかつた事態
- 物件を機体の外に装着し、つり下げ、又は曳航している航空機から、当該物件が意図せず落下し、又は緊急の操作として投下された事態
- 航空機から脱落した部品が人と衝突した事態
- 前各号に掲げる事態に準ずる事態
なお、施行規則の第17号は、「前各号に掲げる事態に準ずる事態」とありますが、これはきわどいものは都度航空局が判断するという意味があると思われます。
まとめ
重大インシデントは航空法76条第1項と施行規則65条の2と3、重大インシデントは航空法第76条の2と施行規則166条の4の各号の通りということになります。
該当するか判断するのは国土交通省航空局であり、認定されると航空事故調査として運輸安全委員会が運輸安全委員会設置法に基づき設置され、事故や重大インシデントの原因究明を行い再発防止が図られます。
もちろん、各航空会社は、このような事故や重大インシデントを発生させないよう安全管理を行っていますし、発生させてしまった場合は独自に調査を進め、即時に対応を取ることになっています。
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