航空局による安全監査は、航空会社の安全性を担保するための重要な取り組みのひとつです。
航空会社の利用者である皆さんは、航空会社の安全性が気になるところと思います。
今回は、航空運送事業者(航空会社)が定期的に受検している、航空局によるへの安全監査の内容を解説します。
目次
- 安全監査の位置付け
- 航空運送事業等の安全監査に関する基本方針
- 安全監査の対象
- 安全監査の方法
- 安全監査(立入検査)の視点
- 立入検査の拒否と罰則
- 安全監査の種類
- 安全監査の頻度
- 安全監査で検査しない情報
- まとめ
安全監査の位置付け
まず安全監査の安全管理上の位置づけを説明します。
国連の経済社会理事会の専門機関である国際民間航空機関(ICAO)に所属する国は、ICAOが定める標準を採用して航空安全プログラムを施行しなければなりません。
日本国もこのICAOに所属しているため、さまざまな活動を通して航空安全プログラムを実行しています。その航空安全プログラムは、航空法を通して施行しています。
航空安全プログラムの活動の一つが、安全監査です。
安全監査の実施は、航空法第134条(報告徴収及び立入検査)に定められています。
航空法第134条(報告徴収及び立入検査)
国土交通大臣は、この法律の施行を確保するため必要があるときは、次に掲げる者に対し、航空機若しくは装備品等の設計、製造、整備、改造若しくは検査、航空従事者の養成若しくは知識及び能力の判定、航空身体検査証明、空港等若しくは航空保安施設の工事、管理若しくは使用、航空機の使用、航空業務、航空運送事業、航空機使用事業、危害行為の防止、無人航空機の所有若しくは使用、無人航空機の飛行若しくは設計、製造、整備、改造若しくは検査、無人航空機の装備品若しくは部品の設計、製造、整備若しくは改造、無人航空機操縦者の講習若しくは知識及び能力の判定又は航空運送代理店業に関し報告を求めることができる。
一 航空機又は装備品等の設計、製造、整備、改造又は検査をする者
二 国土交通大臣の指定を受けた航空従事者の養成施設の設置者
三 指定航空身体検査医
四 空港等又は航空保安施設の設置者
五 航空従事者
六 操縦技能審査員
七 航空運送事業又は航空機使用事業を経営する者
八 前号に掲げる者以外の者で航空機を使用するもの
九 航空旅客取扱施設の管理者
十 第百三十一条の二の二第二項第六号の国土交通省令で定める者
十一 危険物等所持制限区域の管理者
十二 保安検査を行う者
十三 保安検査業務受託者
十四 預入手荷物検査を行う者
十五 預入手荷物検査業務受託者
十六 無人航空機の所有者、使用者若しくは飛行を行う者、無人航空機の設計、製造、整備、改造若しくは検査をする者又は無人航空機の装備品若しくは部品の設計、製造、整備若しくは改造をする者
十七 指定試験機関
十八 登録講習機関
十九 登録更新講習機関
二十 航空運送代理店業を経営する者
2 国土交通大臣は、この法律の施行を確保するため必要があるときは、その職員に、前項各号に掲げる者の事務所、工場その他の事業場、空港等、航空保安施設を設置する場所、空港等若しくは航空保安施設の工事を行う場所、航空機若しくは無人航空機の所在する場所又は航空機に立ち入つて、航空機、航空保安施設、無人航空機、帳簿、書類その他の物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。
134条第1項の規定は、国(国土交通大臣)が航空法の施行を確保する必要があるときに、航空運送事業者等に対して報告を求めることができるというものです。
134条第2項の規定は、国(国土交通大臣)が航空法の施行を確保する必要があるときに、航空運送事業者等の事務所等に立ち入って、帳簿・書類・その他物件を検査させ、関係者に対して質問できるというものです。
つまり第2項の規定が「安全監査」の実施を規定しているものです。
安全監査の詳細については、航空法第134条の2(安全管理規程に係る報告徴収又は立入検査の実施に係る基本的な方針)で、「航空運送事業等の安全監査に関する基本方針」という通達に基本的な方針を定めることとし、この内容を国民に公開しています。
航空法第134条の2(安全管理規程に係る報告徴収又は立入検査の実施に係る基本的な方針)
国土交通大臣は、前条第一項の規定による報告徴収又は同条第二項の規定による立入検査のうち安全管理規程(第百三条の二第二項第一号に係る部分に限る。)に係るものを適正に実施するための基本的な方針を定めるものとする。
航空運送事業等の安全監査に関する基本方針
「航空運送事業等の安全監査に関する基本方針」に定められている内容は以下の通りです。
安全監査の対象
特定本邦航空運送事業者の場合は、整備認定事業場(法第20条による認定)、運航乗務員の指定養成施設(法第29条第4項による認定)、指定本邦航空運送事業者(法第72条第5項による指定)の認定や指定を受けている場合は、これらの認定や指定についても安全監査の対象となります。
安全監査の方法
基本的には、航空法第134条による立入検査の方法で安全監査が行われます。
立入検査とは、監査官が実際に事務所や空港等の必要な場所に立ち入って書類をはじめとしてさまざまな物件を検査することです。
ちなみに航空安全プログラムは非懲罰の原則があることから、立入検査は犯罪捜査の一環として実施することはできません。犯罪捜査の場合は、警察が別途刑事捜査のために立ち入ることになりますが、これは「検査」ではなく「捜査」になります。
安全監査(立入検査)の視点
安全監査の視点としては、以下の2通りが基本指針の中で規定されています。
- 本社・基地・訓練所
- エンルート
「本社」というのは、例えばANAでいえば、汐留の本社機能になります。
「基地」というのは、主に就航先の空港を意味します。整備実施体制や旅客取扱業務や地上取扱業務などが監査の対象となります。
「訓練所」というのは、指定養成の訓練を実施する場所などを言います。
「エンルート」というのは運航便を意味します。エンルート監査は、主に運航監査や運用監査といわれ、実際の運航便のコックピットに航空局の監査官が乗り込んで行われるものです。
運航監査は運航乗務員の業務を監査し、運用監査は主に機体の運用や便間に行われるライン整備業務を監査するものです。
ちなみに、エンルート監査は運航便のコックピットに搭乗して監査するため決して効率のよい監査とは言えないことから、基本的には本社や基地監査への移動と併せて行われることが多いです。
立入検査の拒否と罰則
航空運送事業者等は、立入検査を拒否することができるでしょうか。
基本的にはできない、というのが回答になります。
立入検査を拒否することについては航空法第158条に「立入検査の拒否等の罪」という罰則規定があります。
また、立入検査時に嘘を言うこともこの罰則規定の対象になります。
該当する場合、100万円以下の罰金に処せられます。
航空法第158条(立入検査の拒否等の罪)
次の各号のいずれかに該当するときは、その違反行為をした者は、百万円以下の罰金に処する。
一 第四十七条第三項又は第百三十四条第二項の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。
二 第百三十四条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。
三 第百三十四条第二項の規定による質問に対して虚偽の陳述をしたとき。
安全監査の種類
監査の種類は、「計画的監査」と「随時監査」に分けられます。
「計画的監査」というのはその名の通り、事前に計画された監査のことをいいます。
具体的には、前年度末に航空局が作成する次年度の監査計画で対象となる監査を計画的監査といいます。
「随時監査」というのは、計画的監査以外の監査で、年度計画にない監査をいいます。
厳密には、随時監査には2つの意味があります。
1つは、緊急性のある安全監査で、いわゆる臨時監査です。
例えば、法令違反などがあった際に、監督官庁としての航空局が法の施行に必要と判断する場合に行われます。
事故や重大インシデントが発生したときや不安全事情が繰り返し発生しているときなどに行われます。
記憶に新しいところでは、JALの副操縦士が飲酒でパリで逮捕された事件がありましたが、あのような場面で安全監査が行われます。
このような場合では、最遅でも、前日の午前中には航空局から連絡があるのが一般的です。
もう1つの意味は、臨時ではない随時監査ということです。
本社や基地監査を例にすると、当初年度の監査計画では計画されていなかった監査が追加で行われることがあります。
この場合、通常は遅くとも前月の末までには監査の連絡があります。
現場で勤務する社員の監査対応が必要な場合に、勤務控除したり、立入りの手続きが必要なためです。
エンルート監査は、コックピットに乗り込んで監査する監査をいいます。
そのため、突然そのに日航空会社に連絡したり、空港に行って監査したいと告げても保安上の関係で許ができない場合や運航乗務員の訓練等でコックピット内の予備シート(ジャンプシート)が使えない場合もあります。
このような事態を避けるために、エンルート監査に関しては随時監査としながらも、あらかじめ月間の監査便を調整して決定して行われます。
また、コックピットのジャンプシートに乗るには、航空会社によりますが、それ相応の内容審査や許可証の発行等があり時間を要することもあるので、短期通知での監査というのは現実的には不可能になります。
航空会社のエラーを誘発して法令違反になっては元も子もないので、航空局は慎重になります。
安全監査の頻度
これも基本方針に定めがあります。
- 本社は年4回
- 主基地は年2回
- 寄航地は4年に1回
これに加えて新規事業者に対しては1年間、新機種を導入した場合も1年間監査の頻度を増やすことができます。
また、航空局(厳密には所管課長)が必要と判断する場合、頻度を増やすことができます。
この運用に基づき、比較的新しい航空会社、例えばLCCは本社はX回、基地はX回、寄航地はX回などと、レガシーキャリアであるANAやJALと比べると多くなっています。
安全監査で検査しない情報
航空安全プログラムの一つである未然防止活動の中心となる自発的報告制度は、原則非懲罰で秘匿に取り扱われる前提から成り立っています。
理由は単純で、懲罰前提で報告者の氏名が公開されるような危険な環境では、誰も不安全情報を報告しないからです。
安全監査においても、この前提を崩さないように、制度や運用状況について検査するものの、監査官は個人の特定などをしないように検査することになっています。
自発報告制度の運用状況の確認として、件数や報告内容の種類などの概要を把握するものの、各事案の内容については検査しないというのが基本的な実施方法になります。
まとめ
国際民間航空機関のメンバーである日本は、国際民間航空機関の標準に従い航空安全プログラムを策定します。
安全監査は同プログラムの一部の活動です。
航空局による安全監査は、航空法第134条に基づき立入検査という方法で行われます。
監査対象は、本社、基地、寄港地、訓練所、エンルート(運航監査と運用監査)があります。
計画的監査と随時監査があり、計画的監査は年度計画で計画され、随時監査には緊急性のある臨時監査と都度行うという意味の随時監査があります。
頻度は、新しい航空会社や新機種を導入した場合は、監査頻度が多くなります。