飛行機に乗り込むと、入り口で必ず目にするが客室乗務員の皆さんです。
いつも笑顔で「ご搭乗ありがとうございます。」と言われるとこちらも笑顔になりますね。
そんな客室乗務員ですが、客室乗務員が搭乗している本当の理由をご存知でしょうか。
客室乗務員が搭乗している真の理由は、客室サービスのためではありません。
今回は、客室乗務員が登場している本当の理由と客室乗務員の業務の内容について解説します。
目次
- 客室乗務員が登場している本当の理由とは
- 航空法で定める客室乗務員の役割
- 運航規程審査要領と運航規程審査要領細則とは
- 運航規程審査要領細則に定める客室乗務員の職務
- まとめ
客室乗務員が登場している本当の理由とは
客室乗務員が搭乗している本当の理由は「保安業務」を行うためです。
客室内におけるサービス提供が客室乗務員が登場している理由と思われる方もいると思いますが、法令等で定められた客室乗務員の役割(本当の理由)は客室サービスの提供ではありません。
本当の理由は旅客や乗務員の安全を確保する「保安業務」を行うためです。
航空法で定める客室乗務員の役割
航空法で客室乗務員の役割が規定されています。
航空運送事業者が航空機を運航するためには、航空機の運用や整備に関する事項について航空法施行規則に定めている事項について、運航規程と整備規程を定めて、国土交通大臣の許可を受ける必要があります。
航空法の第104条の規定では以下の通り定められています。
「第百四条 本邦航空運送事業者は、国土交通省令で定める航空機の運航及び整備に関する事項について運航規程及び整備規程を定め、国土交通大臣の許可を受けなければならない。その変更をしようとするときも、同様とする。」
国土交通省令、つまり、航空法施行規則に定める事項とは、以下のような内容です。これらの内容を運航規程に定めて、国土交通大臣の許可を受ける必要があります。
航空法施行規則第214条にこれらが定められています。
① 運航管理の実施方法
② 航空機の乗組員及び客室乗務員の職務
③ 航空機乗組員及び客室乗務員の編成
④ 航空機乗組員及び客室乗務員の乗務割並びに運航管理者の業務に従事する時間の制限
⑤ 航空機乗組員、客室乗務員及び運航管理者の技能審査及び訓練の方法
⑥ 航空機乗組員に対する運航に必要な経験及び知識付与の方法
⑦ 離陸し、又は着陸することができる最低の気象状態
⑧ 最低安全飛行高度
⑨ 緊急の場合においてとるべき措置等
⑩ 航空機の運用の方法及び限界
⑪ 航空機の操作及び点検の方法
⑫ 装備品等が正常でない場合における航空機の許容基準
⑬ 空港等、航空保安施設及び無線通信施設の状況並びに位置通報等の方法
⑭ 貨物及び手荷物の受取及び保管、航空機に係る積載及び重量配分の管理、積載物の積込み及び取卸し、旅客の安全な乗降の確保、航空機の燃料の補給、航空機の雪氷の防除、航空機の地上走行の支援その他空港等内において航空機が到着してから出発するまでの間に地上で実施する作業であってその適切な実施が確保されない場合において航空機の運航の安全に支障を及ぼすおそれのあるものに係る業務の実施方法並びに地上取扱業務に従事する者の訓練方法
⑮ 航空機の運航に係る業務の委託の方法
なお、客室乗務に関する事項については、客室乗務員を航空機に乗り組ませて事業を行う場合に限り必要となります。
つまり、貨物便のみを運航する航空会社では、客室乗務員に関する規定は不要です。
航空法施行規則が規定する事項のうち、客室乗務員の職務に関係しているのは以下の事項になります。施行規則で定める具体的な内容も詳しく見ていきましょう。
②航空機の乗組員及び客室乗務員の職務
飛行前、飛行中及び飛行後の各段階における航空機乗組員及び客室乗務員の職務の範囲及び内容が明確に定められていること。
⑨緊急の場合においてとるべき措置等
発動機の不作動、無線通信機器の故障、外国からの要撃、緊急着陸等の緊急時体が発生した際に各事態に応じて航空機及び乗客の安全を確保するために航空機乗組員、運航管理者、客室乗務員その他の職員がとるべき措置及び救急用具の搭載場所及び取扱方法が明確に定められていること。
つまり、航空運送事業者は航空機の運航を行うためには、運航規程に客室乗務員の職務の範囲と緊急時の対応について規定し、国土交通大臣の許可を受ける必要があるということになります。
国土交通大臣は、運航規程の内容が技術上の基準に適合していると認めるときはこれを許可しなければならないことが、航空法第104条第2項に規定されています。
「2 国土交通大臣は、前項の運航規程又は整備規程が国土交通省令で定める技術上の基準に適合していると認めるときは、同項の認可をしなければならない。」
ちなみに「前項」というのは、航空法第104条第1項のことで「邦航空運送事業者は、国土交通省令で定める航空機の運航及び整備に関する事項について運航規程及び整備規程を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。その変更(中略)をしようとするときも、同様とする。」
航空局は、提出された運航規程の内容について審査するわけですが、これは運航規程審査要領と運航規程審査要領細則に基づいて行われます。
運航規程審査要領と運航規程審査要領細則について、次のセクションで説明します。
運航規程審査要領と運航規程審査要領細則とは
運航規程審査要領とは、いわば航空局の内部規定にあたるもので、航空法第104条にもとづいて航空運送事業者が定める運航規程の航空法施行規則第214条に規定する、運航に関する事項及びその技術上の基準への適合性の審査にあたっての指針を示すものです。
運航規程審査要領細則は、運航規程審査要領の詳細を補完するものです。
つまり、運航規程審査要領とその細則は、「航空局はこういう基準で運航規程を審査しますよ」という内容を公にして透明性を持たせているものになります。
運航規程審査要領細則を見ると、航空法施行規則第214条で運航規程に含むことが規定されている項目のうち②航空機の乗組員及び客室乗務員の職務と⑨緊急の場合においてとるべき措置等の内容について詳しく要求事項が記載されています。
運航規程審査要領細則に定める客室乗務員の職務
それではその運航規程審査要領と運航規程審査要領細則は、客室乗務員の職務をどのように規定しているのでしょうか。
運航規程審査要領細則には、以下の内容で客室乗務員の職務を運航規程に規定することが指針として示されています。(運航規程審査要領細則の該当部分を抜粋して記載)
3.航空機乗組員及び客室乗務員の職務
3-2 航空機乗組員及び客室乗務員の指名方法
(3)当該運航に従事する客室乗務員の中から、指揮統括者(以下「先任客室乗務員」という。)」が指名されること。(客室乗務員が2人以上乗務する場合に限る。)
3-5 航空機乗組員及び客室乗務員の職務の範囲及び内容
(4)客室乗務員
① 旅客に対するシートベルトの常時着用の要請その他安全上の指示及び説明、緊急避難に係る誘導、機内火災の消火、機内持ち込み手荷物の適切な収納等、客室安全の確保に係る業務を行うこと。
② その他機長の指揮命令に基づく業務を行うこと。
ここでは、客室業務の指揮統括者である先任客室乗務員を指名することが要求事項として記載されています。いわゆる「チーフパーサー」ですが、その呼び名は航空会社各社で異なります。
そしてまさに客室乗務員が行っているシートベルトなどの安全上の説明があり、いざというときには、避難誘導や消火を行いますし、手荷物が椅子の下やオーバーヘッドロッカーに適切に収めることなどが業務として記載されています。
4.航空機乗組員及び客室乗務員の編成
4-2 客室乗務員の編成
客室乗務員の編成が、航空機の型式毎に、航空機の運用限界、客席数又は搭乗旅客数、非常脱出口の数及び位置、救急用具、緊急脱出のための機内設備の取扱い及び緊急時の業務分担を考慮し、以下の基準に従い適切に定められていること。
(1)客席数が50席を超える航空機の客室乗務員の必要数
① 少なくとも次のa.又はb.に規定する数の客室乗務員を配置すること。
a.客席数を50で除した数(端数切り上げ)。
b.上部客室に客席を有する型式機にあっては、
イ.主脱出経路が主客室を経由する型式機にあっては、a.に規定する数に1名を加えた数。
ロ.主脱出経路が上部客室に設置された非常脱出口である型式機にあっては、主客室の客席数を50で除した数(端数切り上げ)に上部客室の客席数を50で除した数(端数切り上げ)を加えた数。
② 急病等止むを得ない事由により①に規定する数の客室乗務員の配置が困難となった場合、少なくとも次のa.又はb.に規定する数の客室乗務員が配置できれば、当該人員によって客室乗務員の補充可能な基地まで運航してよい。この場合必要に応じ搭乗旅客の座席管理を適切に行うこと。
a.搭乗旅客数(幼児は含まない。以下同じ)を50で除した数(端数切り上げ)。
b.上部客室に客席を有する型式機にあって、当該客室に旅客が搭乗する場合は、
イ.主脱出経路が主客室を経由する型式機にあっては、a.に規定する数に1名を加えた数。
ロ.主脱出経路が上部客室に設置された非常脱出口である型式機にあっては、主客室の搭乗旅客数を50で除した数(端数切り上げ)に上部客室の搭乗旅客数を50で除した数(端数切り上げ)を加えた数。
(2)客席数が50席以下の航空機の客室乗務員の必要数
次のいずれかに該当する場合には、少なくとも1名の客室乗務員を乗り組ませること。
① 客席数が19席(最大有償搭載量が3,400キログラムを超える場合にあっては9席。以下、この章において同じ。)を超える航空機を使用する場合
② 客席数が19席以下の航空機であって、操縦室から客室を監視することができないものを使用する場合
③ 客席数が19席以下の航空機であって、客室の乗降用ドアーを不用意に開けられないような措置が講じられていないものを使用する場合
④ 上記②及び③については、路線を定めて旅客の輸送を行うもの以外の航空機であって、客席数が少なく、かつ、航空機乗組員によって緊急時の旅客の安全な脱出の統制、援助措置を講ずることができる型式機にあっては、客室乗務員は配置しなくてもよい。
(3)客室乗務員の配置場所
① 離着陸時(地上走行中を含む。以下同じ)においては、客室乗務員はできる限り非常脱出口の近くに、又、旅客の配置状況に対応して配置すること。
② 上部客室に客席を有する型式機にあっては、当該客室に旅客が搭乗する場合、離着陸時においては当該旅客の脱出経路上適切な場所に配置すること。
(4)その他
チャーター運航便について上記(1)の規定を適用する場合は、(1)①の規定中「客席数」とあるのを「搭乗旅客数」と読み替え、(1)①bの規定中の「上部客室に客席を有する型式機にあっては」とあるのを、「当該客室に旅客が搭乗する場合」としてもよい。
ここでは、客室乗務員の人数について定めがあります。51人以上の乗客の場合は、基本的に乗客50人に対して1人の客室乗務員が最低で必要になります。
そのためLCCのピーチやジェットスターなどは、180席のA320においては、客室乗務員を4名配置しているわけです。ANAやJALになると、これに加えて、ビジネスクラスの担当などサービスの観点からより多い客室乗務員が搭乗しています。
逆に、アイベックスエアラインズのCRJは70人しか搭乗できないため、客室乗務員も2名の体制になっています。
そして、離着陸の時は決まって非常口の近くに座っていますが、これも法令上の要求事項になります。
10.緊急の場合においてとるべき措置等
10-1 緊急事態発生時等の措置
航空機乗組員、客室乗務員及び運航管理者等がとるべき措置及び緊急事態に備えてあらかじめ取るべき措置が、想定される次のような緊急事態に応じて適切に定められていること。
(1)機材故障
発動機の不作動、急減圧、無線通信機の故障、航法機器の故障等
(2)緊急着陸等
燃料放出、超過重量着陸、緊急着陸(水)、緊急脱出等
(3)空中火災
(4)Crew Incapacitation
(5)ハイジャック
(6)爆発物脅迫(爆発物その他の危険物に係る緊急時の対応措置を含む。)
(7)外国からの要撃
(8)他の航空機の遭難の認知、緊急・非常通信の運用
(9)その他の不測事態
さまざまな緊急事態がありますが、その時に客室乗務員がどのような措置を取るかも事前に規定しておく必要があります。また、緊急事態に備えてあらかじめとる措置というのは、例えば、非常誘導灯が点灯するか、インターフォンが適切に稼働するかなど、乗客が乗り込む前にチェックリストに基づいてさまざまな項目を確認します。
ちなみに、航空法における事故や重大インシデントの定義はこちらで解説しています。
10-2 航空機乗組員、客室乗務員及び運航管理者等の職務
緊急事態発生時等の航空機乗組員、客室乗務員及び運航管理者等の責任及び職務の範囲が以下に従い適切に定められていること。
(3)客室乗務員
① 客室内で緊急事態が発生した場合、可能な限り、事態の状況を機長に報告するとともにその後の状況の変化を逐次報告すること。また、操縦室との連絡の手順が適切に定められていること。
② 緊急事態が発生した際に旅客の安全を確保するためあらかじめとるべき措置として以下の事項が定められていること。
a.離着陸に際し、また、機長から指示された場合において、指定された座席に座席ベルト等を着用して着座すること。
b.飛行前に旅客に対し救急用具の使用方法及び格納場所並びに緊急事態に際しての客室内の安全措置について周知を図ること。なお、客席数が30を超える航空機にあっては、10-8の規定に従って周知を図ること。
c.先任客室乗務員が他の客室乗務員に与える指示、役割分担等に関すること。
d.その他緊急事態を想定した必要な事項に関すること。
③ 緊急事態が発生した後の措置として以下の事項が定められていること。
a.緊急事態の内容に応じた各々の客室乗務員の役割に関すること。
b.旅客に対する機長の指示・命令の伝達及びその方法に関すること。
c.機長の職務の支援及びその方法に関すること。
こちらも緊急事態の措置で、客室乗務員が取らなければならない措置の要求事項が具体的に記載されています。
これらの運航規程審査要領の内容を読むと、客室乗務員が搭乗する本当の理由が旅客や乗務員の「保安業務」であることがわかります。サービスはあくまでも二次的なもので、たまたま法令で搭乗が義務付けられているから、保安業務に差し支えない範囲でサービス提供しているというのが実態ということになります。
そしていざというときに、客室乗務員が保安業務を全身全霊で全うした結果、JALと海上保安庁の事故の時のように、乗客の安全を守ることができるわけです。
NHKニュース:日本航空 機体炎上“全員脱出” 海保機の5人死亡 乗客14人けが
まとめ
客室乗務員が登場している本当の理由は「保安業務」を行うためということがわかったと思います。
各航空会社は、航空法の定めるところにより、運航規程を作成して国土交通大臣の許可を受ける必要があります。その運航規程の中身については、航空局の内規である運航規程審査要領と運航規程審査要領細則にもとづいて審査されます。
その運航規程審査要領と細則には、客室乗務員の保安業務について運航規程に定める必要があることが記載されていることから、法令上、客室乗務員はサービスではなく「保安業務」を行うためということがわかります。