飛行機の整備は整備士がやってはいけない?

普段利用する飛行機はどのようにして整備されるのか、疑問に思ったことはないでしょうか?今回はそんな素朴な疑問に答えます。

ここでいう飛行機とは、航空運送事業者が運航する航空機を指します。航空運送事業者とは、例えばANAやJAL、LCCではPeachやバニラエア、Jet Starなどを指します。

見出しの、「飛行機の整備を整備士がやってはいけない」というのは少し言い過ぎですが、整備士が勝手に一人で整備し、運航に供することはできません。

これがどういう意味か、航空法を紹介しながら説明していきます。

航空機の登録と耐空性

まず前提として航空機の登録と耐空性の説明から入ります。

航空機の登録

航空法第3条には、「国土交通大臣は、この章で定めるところにより、航空機登録原簿に航空機の登録を行う」とあります。

登録を受けた航空機は日本国籍を取得します。(航空法第3条の2)

新規登録の際は、航空機の型式、航空機の製造者、航空機の番号、航空機の定置場、所有者の氏名又は名称及び住所、登録の年月日を航空機登録原簿に記載することで登録を行います。(航空法第5条)

国土交通大臣は、新規登録をしたときは、申請者に対し、航空機登録証明書を交付しなければなりません。(航空法第6条)

自動車と同じように登録を行いナンバーを登録して、車庫証明を取るという手続きと基本的な概念は同じです。

耐空性(耐空証明)

航空法第10条には、「国土交通大臣は、申請により、航空機(国土交通省令で定める滑空機を除く。以下この章において同じ。)について耐空証明を行う。」とあります。

耐空証明というのは、その航空機が飛行を行える安全性および信頼性を有しているか、つまり、耐空性を有しているかを様々な基準で検査することを言います。

基準には、航空機の性能、飛行性、強度、構造などがあり、耐空検査により基準を満たしていると認められると、国土交通大臣によって耐空証明書が発行されます。

これも自動車で例えると、車検と同じ概念になります。車検は新車であれば最初3年、後は2年の間隔で受けますが、航空機の耐空証明の有効期間は1年が原則です。(航空法第14条)この14条には但し書きがあり、連続式耐空証明という制度の例外もありますが、ここでは省略します。

耐空性の維持

登録と耐空証明を受けた航空機はようやく飛べる状態になります。

ここからが本題になっていきますが、航空機は使用するに当たり、整備が必要になります。故障を防ぐための点検や保守、故障を直すための修理や改造などがあります。

航空法第19条では、「航空運送事業の用に供する国土交通省令で定める航空機であつて、耐空証明のあるものの使用者は、当該航空機について整備(国土交通省令で定める軽微な保守を除く。次項及び次条において同じ。)又は改造をする場合(第十六条第一項の修理又は改造をする場合を除く。)には、第二十条第一項第四号の能力について同項の認定を受けた者が、当該認定に係る整備又は改造をし、かつ、国土交通省令で定めるところにより、当該航空機について第十条第四項各号の基準に適合することを確認するのでなければ、これを航空の用に供してはならない。」とあります。

だんだんと難しくなってきましたね。法律らしい言葉が並んでいます。

簡単に解釈すると、耐空証明を取った航空機を使用するエアラインは、この航空機の整備や改造をする場合は、第20条第1項4号の能力を持っている者が、この整備や改造をして、第10条4項の基準に合格していることを確認しないでこの航空機を飛ばしてはいけません。ということです。

では 第20条第1項4号の能力を持っている者とは誰でしょうか。

航空法第20条第1項4号は「国土交通大臣は、申請により、次に掲げる一又は二以上の業務の能力が国土交通省令で定める技術上の基準に適合することについて、事業場ごとに認定を行う。 (一から三省略) 四 航空機の整備又は改造の能力」となっています。

この認定を受けた事業場を、航空機整備改造認定事業場と呼びます。これは「事業場」とある通り、法人に対して認定がされます。個人に対しての認定ではありません。

ここで、冒頭に書いた「整備士が勝手に一人で整備し、運航に供することはできません。」という意味がお分かりいただけたと思います。

認定事業場という認定を受けた会社が、第10条4項の基準に合格していることを確認する必要があります。整備士というのはこの事業場を構成する1人にすぎないのです。

念のため、第10条4項の基準を説明します。下記の通りです。

「国土交通大臣は、第一項の申請があつたときは、当該航空機が次に掲げる基準に適合するかどうかを設計、製造過程及び現状について検査し、これらの基準に適合すると認めるときは、耐空証明をしなければならない。
一 国土交通省令で定める安全性を確保するための強度、構造及び性能についての基準
二 航空機の種類、装備する発動機の種類、最大離陸重量の範囲その他の事項が国土交通省令で定めるものである航空機にあつては、国土交通省令で定める騒音の基準
三 装備する発動機の種類及び出力の範囲その他の事項が国土交通省令で定めるものである航空機にあつては、国土交通省令で定める発動機の排出物の基準」

驚くのは、主語が「大臣」となっていることですね。

一日に何万便も飛んでいる航空機のどれかが整備をしたいとなった場合、大臣が耐空証明をしないといけないのです。

羽田空港に行ったり、伊丹空港に行ったり、千歳空港に行ったり、大臣は大忙しですね。ハワイで航空機が故障したら大臣は海外出張ですね。大臣が記者会見しているときは航空機の整備はできません。待つしかないのです。

これはあくまでも「大前提」の話で、現実的でないのは一目瞭然ですね。

ではどうなるのでしょうか。

ここで先ほどの認定事業場というのが出てきます。

大臣でなくても、認定事業場が確認するのであれば、飛ばしてもいいですよ。となっているわけです。

まとめ

私たちがいつも利用している航空会社の飛行機は、認定事業場による確認がされないと飛んではいけないということがお分かりいただけたのではないでしょうか。

整備士が一人で勝手にやってはいけないというのはここからきています。